「ドイツ文学」研究室
「ドイツ文学」を専攻すると何を研究するのでしょうか。ドイツ文学の研究対象は、ドイツ語で書かれた小説や詩、戯曲、それに思想や文化に関するテキストです。
そこにはオーストリアやスイス、かつてのハンガリーやチェコなどの東欧諸国といったドイツ語圏で書かれた文学も含まれます。
例えばグリム童話を収集したグリム兄弟も、ゲッティンゲンやベルリンの大学で教鞭を執ったドイツ人でした。ゲーテやシラーといった古典的な作家だけではなく、日本でもよく知られた『デミアン』や『車輪の下』の作者ヘルマン・ヘッセ、『変身』などを描いたフランツ・カフカもドイツ語で書いた作家です。
児童文学では、『二人のロッテ』や『エーミールと探偵たち』などのエーリッヒ・ケストナー、『モモ』や『はてしない物語』を描いたミヒャエル・エンデなどがいます。
演劇が盛んなドイツには『三文オペラ』などを書き、現代まで影響を及ぼした演劇理論を説いたベルトルト・ブレヒト、最近ではハントケ、イェリネックといった劇作家がいます。オーストリアにもシュニッツラーや、小説家ムージルもいます。
身体表現の世界では、ピナ・バウシュが新たな境地を切り開いたと言われています。建築やインテリアに芸術を取り入れた「バウハウス」もドイツで生まれた活動です。テキスト化された対象ならば、映画などの映像メディア、ドイツ文化に関する内容も研究対象です。
専攻決定まで
専攻はどのように決めてゆくのでしょうか。岩手大学人文社会科学部人間文化課程に入学した学生は、3年次の最後までに主専修プログラムを決定します。そのときまでに必要な科目を履修し、担当教員に卒論指導を依頼することになります。2年次以降に専門領域の授業を中心に履修しながら、3年次で卒業論文のテーマを決定する際に、専門分野(各国の語学、文学、文化、芸術、思想、哲学、歴史、、、心理学、スポーツ科学、などなど)を選ぶことになります。例えばドイツ文学で卒業論文を書く(ドイツ文学を専攻する)学生は、専門分野が「ドイツ文学」となります。
ドイツ文学を卒論テーマとすることを考えている学生は、2年次に「ドイツ文学講義」を履修してみてください。またドイツ語の能力を伸ばすために「ドイツ語構造論」や「ドイツ文化論講義」、「ドイツ語コミュニケーション(基礎・発展・応用)」や「総合ドイツ語」などの授業にも参加するとよいでしょう。「フランス文学講義」や「ロシア文学講義」、「英米文学講義」、「欧米史講義」なども文学に関連する科目と言えます。「欧米の思想と文化」などの他コースの科目も視野を広げてくれるはずです。
学生はこの他にも、それぞれの興味や関心に応じて、他学部や他課程の授業へも参加できます。3年次になると「ドイツ文学演習」などの演習科目に参加しながら、卒業論文のテーマを定めて本格的に研究を進めます。
ちなみに、1年次でドイツ語を履修していない学生も、2,3年次に開講される「ドイツ語基礎」を履修していただければ、半期14回の駆け足になりますが、ドイツ語の基礎を勉強して後期から専門の授業に参加することもできます。
他にはYouTubeチャンネル「ドイツ語クラス・川村和宏」で基礎的なドイツ語の解説やドイツ語勉強のコツ、単語や動詞の暗記用動画を公開していますので、参考にしてください。
私のチャンネル以外にも、ドイツ語学習のためのYouTubeチャンネルとしては、近畿大学の熊谷哲哉先生の「熊谷哲哉、白猫とドイツ語」や馬場浩平先生の「ドイツ文化学・馬場チャンネル」など分かりやすい解説チャンネルがありますので、興味のある方はご覧になってみてください。白猫のブルーちゃん、猫好きの皆さんには必見です。
卒業論文のテーマ
ドイツ語圏の文学に関連する内容を卒論テーマに選んだ学生は、ドイツ言語文化の授業や欧米の文学に関する授業を中心に参加し、教員と相談しながら自らの興味や関心を深めていきます。ドイツ語圏の作品や作家の研究が中心となりますが、ドイツ語で書かれたテキストと他言語のテキストの比較や、ドイツ語のテキストが異文化と接触する場面で生ずる現象について考えることもできます。
グリム童話を例に考えてみると、明治時代に初めてグリム童話が日本語へ翻訳された際に生じた改作の内容について研究することもできます。地域的なテーマに関心があれば、『遠野物語』とグリム童話の類似性を指摘することもできるでしょう。さらにドイツ語圏の文学に描かれた経済思想に着目したり、日本のポップカルチャー(マンガやアニメなど)がドイツ語に訳される際に生ずる現象を考察するなど、研究の可能性は広がっています。
比較文学や比較文化に関する研究もドイツと関連していれば可能です。ドイツ語圏のテキストを中心とした研究となりますが、テーマが「ドイツ語圏」を取り巻くものに限定されることで、むしろ考えをまとめやすくなるメリットがあります。
具体的な卒論テーマの例を下記に挙げておきます。
- 『はてしない物語』における枠物語構造について
- 『砂男』における自動人形の表象について
- パウル・ツェラーンの詩における「薔薇」について
- ヘッセ作品に見る「若者」像の変遷
- 北欧神話とドイツ語圏の伝承に関する比較研究
- 現代日本の演劇に見るブレヒトの演劇理論の影響
- 世紀転換期の「都市」表象の特徴について
- プロパガンダとしての戦時児童文学
- 「バウハウス」と日本のインテリア・デザイン
- カリオストロ伯爵とペテン師イメージ
- ジェンダー論として見る『ハイジ』
- ユートピア文学の系譜
- 19世紀ドイツ文学に描かれた「制服」の効果について
- シュタイナー教育の理念と世紀転換期の思潮について
- スマートフォンを利用したドイツ語学習スキーマ
- YouTubeを活用した反転授業の試み
例えば、『グリム童話』として馴染みの深い「メルヒェン」について考える場合の例もまとめました。
- 映画『ラプンツェル』のプロットに関する研究
- 東北地方におけるグリム童話の再話現象について
- 『ヘンゼルとグレーテル』のオペラ化と伝承への影響
- 『灰かぶり(シンデレラ)』のプロットの改変過程について
- 『白雪姫』に込められた女性観の変遷
- グリムの『メルヒェン』と日本の『昔ばなし』における蛙のモチーフ
- 日本のポップ・ミュージックに見られるグリム童話のモチーフ
- ディズニーランドにおけるグリム童話の再生産について
上に挙げた例は、授業の内容や興味深いと考える卒論テーマ、教員自身の研究テーマなどに基づいていますが、こうした例にとらわれず自身が興味深いと考えるテーマを探し出して欲しいと考えています。
ヨーロッパ語圏文化学生研究室
ドイツ語関係の学生は、ヨーロッパ語圏文化プログラムの学生研究室を使用することができます。学生研究室には、辞書などが備えられていますので、予習や学生同士の雑談に活用してください。ヨーロッパ語圏文化プログラムの研究室は、ドイツ、フランス、ロシア関係の学生たちと一緒におしゃべりできる空間です。そうした「おしゃべり」もある種のコミュニケーション能力を育ててくれるはずです。
教員の研究室には随時訪ねていただいて構いません。履修科目の相談や専攻決定、留学や就職活動の相談など、できるかぎり対応します。就職活動や留学関連の書籍、ドイツ語によるメディア素材、ドイツ語の多読テキストなどを用意していますので、興味のある方は訪ねてみましょう。事前にメール等で相談の予約をしていただけると助かります。
また欧米言語文化コースの書庫には、ドイツ語圏の作家の原書が保管されていますので、卒業論文や修士論文執筆の際に活用できます。
コミュニケーション能力
ドイツ文学研究室では、ドイツ語の文献を精確に読む力をつけることを重視しています。それはドイツ語を使ってより専門的な研究を続けることを視野に入れているためです。
ただそれと同時に、いわゆるコミュニケーション能力を伸ばすことも大切であると考えています。「コミュニケーション能力」という言葉は多義的な言葉なのですが、ここでは「異なる文化を背景に持つひとと外国語で意志を疎通させる能力」という意味で使用します。ドイツ言語文化の場合は、このコミュニケーション能力を養成するために、ドイツ語ネイティヴ・スピーカーによる「ドイツ語コミュニケーション(基礎、発展、応用)」の授業を提供しています。親切で気さくな先生方の授業ですので、欧米言語文化コース以外の学生や、ドイツ語そのものやドイツ語圏への留学に興味のある学生も参加していただいきたいと考えています。
ドイツ語技能検定試験(独検・1〜4級)に挑戦するのもよいでしょう。岩手大学では、1年次に履修する全学共通教育のドイツ語を履修すれば4級程度の能力が養われるように授業を構成しています。「ドイツ語課題解決研修(短期研修)」等でドイツへ行くのも楽しい体験となるでしょう。卒業までに独検2級やヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)B1の取得することを目標に勉強すれば、具体的な目標ができて勉強が楽しく感じられるでしょう。
大学院への進学
大学院へ進学する場合、岩手大学の人文社会科学部では修士課程を提供しています。ただし、ドイツ文学などの研究者を目指す場合、現在は博士論文を執筆する(博士課程を修了する)ことが必須となっています。そのためには、博士課程のある国内外の大学院にさらに進学する必要がありますので、各自のテーマに応じた進学先を教員と相談しながら検討することになります。